「香り」は無口な音楽家『ロンドン・コーリング/Nomad Lifeを生きる』

楽家としてそしてまた調香師として活躍している大学時代の友人がいる。

まだ暑かった日曜日の午後久しぶりの再会を果たしたのだが、後日その再会の日のきれいな夜空と夏の夜の幸福感をイメージしたという、私のために特別にブレンドした香水をプレゼントしてくれた。

早速つけてみるとグリーンでフレッシュなトーンがフワッと立ち上がる。そしてしばらくすると大人っぽいアンバーの香り。何時間か後には、昔どこかで嗅いだことのあるような、懐かしい花のような香りに落ち着いた。脳内の記憶中枢を優しく撫でられているよう。それはセンシュアルな感じよりも、母性的でプライマルな感触の香りだ。

私は昔から香水が大好きで、15歳の時に貯めたお小遣いで、初めてオー・デ・コロンを買った。クリスチァン・ディオールの『Miss Dior』黒と白の千鳥格子の帯に黒のリボンが小瓶の首に巻かれていて若々しく愛らしい品だった。

小瓶の形状は覚えていても、その香りをはっきりと言葉にすることはむずかしい。記憶の引き出しの奥の奥にしまわれているのだ。でも出会ったら間違いなくそれと一瞬にして気づくだろう。

友人によると、香料原料の使用規格が変わったりしたため、もう当時と同じ香りのものは手に入らないと言う。再会はもうなさそうだけれど、、、ぼんやりとしたその記憶が愛おしい。

香りは形のない無口な音楽のよう。

 

Photo by Sanorui&NK

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